民事信託のお役立ち情報

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民事信託の落とし穴 - 相続税の課税

上図のような民事信託を設定したとします。

 

  1. 委託者X、受託者Y
  2. 受益者はABCの3人、受益権割合は20%、20%、60%
  3. 受益者の一部が死亡した時の受益権の帰属先は特に定めていない
  4. ABC全員死亡で信託終了、その時点で残った財産はZに帰属する

 

上記3が問題で、民事信託契約の中で特に定めを置かなかった場合に、Bが死亡したらBの受益権はどうなるのでしょうか。もし所有権ならば他の共有者が持分割合に応じて取得します。つまりAが5%、Cが15%の割合でBの持分を取得します。これは民法に規定があります。受益権も同様でしょうか?それともBの受益権は消滅して誰にも帰属しないのでしょうか?この辺は信託法に明確な規定がないので正直な所よくわかりません。

仮にBの受益権が消滅するとしても、最終的に信託終了時に財産は全てZが取得するため、財産の一部が宙に浮くということはありません。信託期間中はBの受益権割合にあたる財産はACに配分されず、信託終了までYの管理のもと信託財産としてプールされることになるでしょう。

ただし、相続税法には規定があります。税法上は持分割合に応じてACが取得したとみなし、相続税が課されてしまいます。つまり、実体上Bの受益権をACが取得できるかどうかは不明確だが相続税はきっちり取られるということです。

 

結論として、受益者の一部が死亡した場合の受益権の帰属先は民事信託契約の条項として明確に定めておくべきです。仮にB死亡時にDが受益権を取得するとした場合、そのDの死亡時はどうするのかも考えなければなりません。信託終了条件を満たすまでの間、受益権の帰属先がなくなって宙に浮くことがないよう、あらゆるケースを想定して信託条項を練る必要があります。


民事信託の落とし穴 - 受益者のいない信託

委託者や受託者のいない信託はあり得ませんが、受託者はいない場合もあります。例えば、受益者を「将来生まれる孫」にする場合等です。「目的信託」と呼ばれることもあります。

 

民事信託では、通常は受益者に相続税や贈与税が課されます。しかし、受益者不在の場合は信託設定時に受託者に対して法人税が課されることになります。これが相続税や贈与税に比べて非常に高額になることが多いので、民事信託の組成においては受益者不在という事態を避けるよう考慮するのが通常です。

 

最初は受益者が存在していたとしても、その人が死亡して二次受益者を定めておらず、受益者の死亡を信託の終了事由にもしていなかった場合、途中で受益者不在となってしまいます(受益者不在となった時点で受託者に法人税が課されます。)。また、形式上は委託者を当初受益者として定めていても、信託の目的が専ら委託者の死後事務に関することであれば、事実上当初受益者は生存中に信託の利益を受けることはないため、受益者不在とみなされて法人税が課されてしまう恐れがあります。

民事信託の活用事例 - 自分の死後にペットが心配

最近はペットの平均寿命も延びていますので、自分の死後にペットがどうなるか心配という方も多いと思います。解決策の一例として、民事信託を用いた方法を挙げます。

 

ペットは法律上は「物」であり受益者になることはできないので、上図のような仕組みになります。飼主Aが、ペットとその飼育に必要な現金をB(例えば、Aの長男で、マンション住まいなのでペットが飼えない)に信託します。この場合の受益権の内容は、「ペットを貸し与えられること」(名目上はペットの所有権はBに移るので、Bから貸し与えられるという形になります)と「そのための飼育費用の支払いを受けること」です。Aは当初受益者として引き続きペットの面倒を見ます。しかし、Aが死亡したり認知症等の理由でペットの世話ができなくなったときに受益権は二次受益者C(例えば、動物愛護のNPO法人)に移り、その者がペットの世話を引き継ぐことになります。

 

AとCの間でペットの世話を任せる契約を結ぶだけでもいいのですが、民事信託を用いてBを交えることで以下のメリットがあります。

  • 現金(飼育費用)の管理はBが行うので、Cによる目的外の使い込みを防止できる。
  • Cがペットの世話をきちんとしない場合、Bは受益者を変更することができる。

要するに、BがCの仕事ぶりを監督するので、ペットの保護がより確実になるということです。


死後事務委任と民事信託の組み合わせ

死後事務委任契約に民事信託を組み込むことで、死後事務の遂行をより確実なものとすることができます。

 

上図の例では、AとC(例えば、近くの司法書士)との間で死後事務委任契約を結んでいます。通常は、契約締結時点でCに一定の現金を預け、Cはその現金を使って死後事務を遂行し、余ったお金はAの相続人に引き渡す流れとなります。もし、Cが本当に死後事務を遂行してくれるのか、預けた現金を使い込んだりしないか心配な場合は、B(例えば、遠方に住む親族)を加えて民事信託を組成することも一案です。これにより、Bが現金を管理し、死後事務に必要な範囲でCに支給します。また、Cがきちんと死後事務を遂行しない場合は解任して別の者に変更することもできます。

 

死後事務や先述のペットの世話等は、当人が亡くなったり認知症になったりした後で事務が開始されるので、任せた人の仕事ぶりを当人がチェックすることができません。民事信託を利用すれば自分の代わりにチェックしてくれる人を加えることができます。その分契約が複雑になり、費用もかかるので、信頼できる人に事務委任するのが一番なのですが、当事者達を取り巻く環境は時間とともに変化しますし、将来何が起こるかわかりません。事務遂行の確実性を高めるためには、検討する価値のある方策です。