
遺産分割協議についての様々なお役立ち情報を掲載しています。
遺産分割協議書は相続人全員が実印を押す必要があるので、基本的には協力してあげればよいと思います。
注意するとすれば、負債についてです。「資産も負債も全て○○が相続する」という内容ならばよいのですが、「特定の財産(例えば不動産X)は○○が相続する」とだけあり、負債についての記載がない場合は要注意です。もし負債があった場合は相続人全員が均等に負担することが原則です。現時点で負債の存在が明らかでなくとも、後から判明することもあります。特定の方が資産を相続するのであれば、負債も全て相続するよう遺産分割協議書を修正してもらったほうが無難です。
なお、相続人間で特定の相続人が負債を全て相続すると決めても、債権者は各相続人に請求できます。この場合、相続人は自分の負担割合(例えば相続人が5人いるならば5分の1)にあたる額は支払う義務があります。債権者からすると、誰が負債を引き継ぐが相続人間で勝手に取り決められても知ったことではないからです。ただし、弁済した相続人は、遺産分割協議で定めた負債の相続人に対し、弁済額を自分に支払うよう請求することができます。立て替え金を後で回収するイメージです。
しかし、負債の額が余りにも大きい場合は、回収できない可能性もあります。例え遺産分割協議で定めていたとしても、ない袖は振れないからです。このような懸念があるならば、それなりの手間と費用が掛かってしまいますが「相続放棄」をするという選択肢もあります。(相続放棄は3か月以内に行う必要があるので要注意です。)
相続人の間で話し合った結果、財産を一切受け取らないことを相続放棄と言う人がいますが、違います。
相続放棄とは相続人としての地位を放棄することです。家庭裁判所に申し立てる必要があります。相続人ではなくなるので、そもそも遺産分割協議に参加することができません。
夫が亡くなって妻と子が相続人となるケースで、妻に全財産を相続させる意図で子が相続放棄をしてしまうと面倒なことになります。子が相続放棄した結果、第2順位の人に繰り上げで相続権が発生してしまうからです。
第2順位の人とは夫の両親です。両親とも既に亡くなっている場合は夫の兄弟姉妹です。兄弟姉妹も既に亡くなっている場合はその子(夫から見て甥・姪)です。(なお、甥・姪も既に亡くなっている場合はその甥・姪の子は相続人にはなりません。)
両親は先に亡くなっているケースが多いので、この場合、妻と夫の兄弟姉妹とで遺産分割協議をする必要が生じます。疎遠になっていたりそもそも会ったこともないということも多いでしょう。うっかり相続放棄してしまったことが原因ですが、原則として一度相続放棄をすると取り消すことはできません。
なお、相続登記においては財産を取得する・しないに関わらず相続人全員の戸籍謄本を添付する必要がありますが、相続放棄した者については必要ありません。代わりに相続放棄申述受理証明書もしくは相続放棄申述受理通知書を添付します。相続放棄申述受理通知書は相続放棄をすることにより家庭裁判所から送られて来ますが、相続放棄申述受理証明書は家庭裁判所に対し別途取得手続きが必要です。
従来は相続放棄申述受理証明書でなければ相続登記できませんでしたが、取り扱いが変更され相続放棄申述受理通知書でも可となりました。
遺産である不動産を売却し、その代金を相続人全員で分けることにした場合を考えます。(「換価分割」といいます。)
売却の前提として相続登記を入れる必要がありますが、どうせすぐに売却するので便宜的に相続人のうちの1人だけの名義にして、その人が売却の手続きを行う、ということがよくあります。
相続税や譲渡所得税がその人だけにかかってしまわないか?また、売却代金を他の相続人に分配する際に贈与税がかかってしまわないか?と思うかもしれませんが、いずれもその心配はありません。課税上は形式的な名義ではなく実態を考慮してくれます。
ただし、そのことを遺産分割協議書にはっきり書く必要があります。遺産分割協議書から読み取れない場合は、1人の相続人が単独相続したものとして課税されてしまうおそれがあります。
しかし、「便宜的に相続人の1人に相続させる」という遺産分割協議書では、相続登記を入れられない可能性があります。登記は実態に即して入れなければならないという大原則があるからです。(とはいえ、大抵の法務局では大丈夫だと思いますが…)
税務署用と登記用で2つ遺産分割協議書を作るという手もありますが、あまり良い手段とは言えません。
結局一番確実なのは、相続人全員の名義で相続登記を入れることです。その場合、売却手続きに相続人全員の関与が必要となるのでその点が面倒かもしれませんが…
遺言がある場合であっても、相続人全員で遺産分割協議を行って遺言の内容と異なる相続の仕方をすることが可能です。せっかく遺言書を作って残した故人の意思が無視されてしまうのは酷い話かもしれませんが、遺言の内容が必ずしも現実的なものばかりとは限りませんし、相続人全員が合意しているならそれでいいでしょ、というわけです。
遺言に基づいて不動産の相続登記を入れてしまった後でも、「遺産分割」を原因として所有権移転の登記をすることができます。もともと遺言で不動産を相続することになっていた人から、遺産分割協議で不動産を相続することになった人へ所有権を移転するのです。
なお、遺言に瑕疵がある等の事情がない限り、遺言に基づく相続登記を「錯誤」を原因として抹消することはできません。
一度遺産分割協議をして相続登記を入れた後でも、再度遺産分割協議を行って所有権移転登記をすることができます。この場合は(遺言の場合と違って)一度目の相続登記を「合意解除」により抹消することもできるようです。
ただし、遺産分割協議のやり直しで気を付けなければならないのが、「贈与税や不動産取得税がかかる」ということです。これらは通常相続の場合はかかりません。しかし、遺産分割協議をやり直した場合は、最初の協議で相続することになった人から再度の協議で相続することになった人への贈与があったものとみなされてしまうのです。
なお、遺言の場合はその内容と異なる遺産分割協議をしたとしても贈与税や不動産取得税はかかりません。(遺言に基づく相続登記を入れてしまった場合でも同様だと思いますが…ちょっと自信がないので確かなところは税理士さんにご確認ください。)
自分で相続手続きをしようと思っていたが、戸籍を集めている途中で異母兄弟がいることがわかり、どうすればいいかわかならくなったということで相談にいらした方がいました。
50歳近くの方でしたが異母兄弟がいることは今まで知らされておらず、当然会ったこともないとのことでした。ただ、全財産を相談者の方に譲るという自筆証書遺言がありました。
相続人はその方と異母兄弟の2人だけでしたから、異母兄弟には4分の1の遺留分があります。遺留分侵害額請求権の行使期限については民法に以下のように規定されています。
<民法第1048条>
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
自筆証書遺言は家庭裁判所による検認が必要です。戸籍一式等の必要書類をそろえて検認の申し立てをすると、家庭裁判所から他の相続人に「いつ、どこで検認をしますよ」という通知が送られます。しかし、本件では異母兄弟は検認の立ち合いに現れませんでした。
検認済みの遺言書をもって預貯金の解約手続きを完了させましたが、1年は遺留分侵害額請求をされる可能性があるのでその分は使わず残しておいたほうがいいとアドバイスしました。
「相続の開始」は検認の通知で知ったが「減殺すべき贈与又は遺贈があったこと」は知らなかったとして、1年を経過しても(10年経過するまでは)遺留分侵害額請求をしてくる可能性もありますが、検認に立ち会う機会を与えられながら自らその機会を放棄したわけですからその主張は通りにくいと思います。
遺産分割協議では、ある財産を特定の相続人が取得する代わりに、他の相続人に金銭を支払うという内容を取り決めることがあります。例えば、主な遺産が自宅不動産のみで預貯金がほとんどない場合、同居していた相続人Aが不動産を取得する代わりに、相続人Bに対し法定相続分にあたる金銭を支払うというようなケースです。
この金銭は遺産ではなく相続人Aがポケットマネーで支払うもので、代償金といいます。実際の事例で、代償金は分割払いでもいいが支払いを担保するために不動産(相続人Aが取得する不動産)に抵当権を付けたいという方がいらっしゃいました。
それ自体はもちろん可能なのですが、その場合に抵当権が具体的にどのように登記されるのか、調べてみても先例等が見当たらず、管轄法務局に照会することにしました。1週間後に以下の通り回答がありました。
法務局でも前例がなく色々検討してくれたので1週間もかかったようです。具体的には、離婚に伴う慰謝料に倣い「遺産分割協議に基づく」という文言を削るかどうか議論があったようです。(ちなみに慰謝料の場合は「年月日慰謝料債権の年月日設定」となります。「離婚協議に基づく」等の文言は入りません。登記研究355号)
ただし、上記は本件の管轄法務局の回答なので、違う法務局では違う結論を出すかもしれません。実際に登記申請される際は事前に当該不動産の管轄法務局へお問い合わせください。