民法では、後見・保佐・補助を開始できる条件として、以下のように定めています。
後見 | 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者 |
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保佐 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者 |
補助 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者 |
いずれも「精神上の障害」があることが前提となっています。精神に問題があるわけじゃないんだけど体が不自由な人とか、あるいは性格がだらしなくて自分の財産管理をしっかりできない人などは想定されていません。後見・保佐・補助はいずれも家庭裁判所に申し立てを行いますが、その際に主治医の診断書が必要です。何らかの精神上の障害があると診断されなければ、基本的にこれらの制度を利用することはできません。
一方で、任意後見契約であれば、家庭裁判所を通さず当事者間で直接契約を結ぶことができます。任意後見契約は将来精神上の障害が生じた時に発効するので、そうなる前から財産管理を他人に任せたいという人は財産管理委任契約を結ぶことができます。
任意後見や財産管理を任せられる親族がいる場合は良いのですが、いない場合は司法書士等の専門職と契約することもできます。ただし、専門職と契約する場合は定期的に報酬が発生するため、そんな余裕のない方は利用することができません。(法定後見でも報酬は発生しますが、その額は事情を考慮して家庭裁判所が決定します。)
精神上の障害がなく法定後見制度が利用できず、頼れる身寄りもなく、専門職に報酬を払う余裕もない人は、有効な手立てがないのが現状です。このような方で本当に助けを必要としているケースに遭遇すると大変心苦しいのですが、専門職も結局は単なる自営業者なので無報酬で人助けをする余裕がある人は少ないと思います。
認知症等により成年後見人が付いている人の居住用不動産を処分するためには、家庭裁判所の許可が必要です。成年後見人の判断だけで行うことはできません。処分とは売却だけでなく担保に入れることも含みます。
娘が母の成年後見人になっているケースで、母名義の土地の上の母名義の家が古くなってきたので取り壊し、新たに娘名義の家を建てることになりました。この資金を銀行から借り入れ、土地(母名義)と家(娘名義)に抵当権を設定します。
まず、母名義の家の取り壊しについて家庭裁判所の許可が必要です。また、母名義の土地への抵当権設定についても同じく許可が必要です。なお、成年後見人である娘の借金のために母の土地に抵当権を付けることは、成年後見人(娘)と成年被後見人(母)の利益相反行為にあたります。この場合、成年後見人は成年被後見人を代理することはできないので、司法書士を特別代理人に選任して手続きを行いました。
家庭裁判所の許可を申し立てる際に、抵当権設定契約書のドラフト等の資料を添付します。ドラフトの時点では抵当権の債権額は2,000万円だったのですが、許可が下りた後に金額が1,900万円に変更になりました。
2,000万円の許可書を付けて1,900万円の抵当権設定登記が可能か(もしくは1,900万円で許可書を取り直す必要があるか)、管轄法務局に問い合わせてみましたが、「減額する分には問題ありません」との回答だったので、そのまま添付して登記申請しました。